半年ほど前、食養合宿(半断食)に来られた男性から、『がんが自然に治る生き方』ケリー・ターナー著プレジデント社、という本を紹介された。
著者のケリー・ターナーさんは腫瘍内科学の研究者で、ハーバード大学時代に統合医療に興味を持ったという。その後、博士論文研究でがんが劇的に寛解した1000件以上の症例報告論文を分析したという。末期の進行がんから「劇的な寛解」に至った症例報告が世界には数多くあるのに、ダレもそれについて研究しないことに違和感を持ったケリー・ターナーさん。彼女は1年間かけて世界10か国へ出かけ、奇跡的な生還を遂げた人たち100人以上にインタビューしてわかったことがあった。
余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちには実践する様々な共通事項があった。その中で、末期がんから自力で生還した人たちほぼ全ての人たちが実践していることが9つあることに気づいた。この本では、自然治癒力を引き出した9つの実践項目が章立てになっている。
① 抜本的に食事を変える
② 治療法は自分で決める
③ 直感に従う
④ ハーブとサプリメントの力を借りる
⑤ 抑圧された感情を解き放つ
⑥ より前向きに生きる
⑦ 周囲の人の支えを受け入れる
⑧ 自分の魂と深くつながる
⑨ 「どうしても生きたい理由」を持つ
この9項目に順位はないという。人によって重点の置き方が異なるものの、劇的寛解の経験者はほぼ全員、程度の差はあれ9項目ほぼすべてを実践していた。
わたしが指導させていただいた、末期がんから生還した人たちにも共通していて、驚くとともに納得した。そして、世界中に自然寛解した事例が論文になっているだけでも1000件以上あるということは、論文になっているのはごく一部のようであるから、相当数の「自然に治った人たち」がいることを証明している。
抜本的に食事を変えることは、がんは生活習慣病であるのだから、がんになった食事を抜本的に変えるというのは大前提のことである。
抜本的に食事を変える中で、治った人たちの多くが断食を経験していることは興味深い。
断食は最大の解毒方法である。がんという毒素の塊を排毒・排泄させるのに断食は最も大きな力となっている。がんを発生させない食事とともに、定期的な断食が体に溜った毒素を排泄してくれる。
この本を紹介してくれた男性は合宿に来る半年ほど前に肺がんが判り、医師から余命6カ月の宣告を受けていた。和道に来た時ちょうど宣告の6カ月にあたっていたのだが、食事を変えて、生き方が変わったら、宣告を受けた時よりも元気になって、がんから遠ざかっていると感じているという。
現代の日本はがんが生活習慣病であることを忘れている。食事と生活を変え、体と心が変わってくれば、がんは治る。そのことを『がんが自然に治る生き方』が多くの事例を紹介しながら証明している。
この9つの習慣を身につけるのにはコツがある。
「直感に従う」ことは、簡単なことではあるのだけれど、社会通念の強い人であればあるほど、難しい。テレビやニュースから流れてくる情報を鵜呑みにしていたり、世間体や家族の顔色を伺って日々生きていると、自分の中の直感が鈍って、からだの治る力に蓋をしてしまったままの状態が続いてしまう。
人を含めて生物はすべて、病を治す力を体内に内在している。人間でいえば、治る力の心の発動として直感がある。直感は味覚、嗅覚、聴覚、視覚、皮膚感覚の五感と密接に連動している。これらの五感が鋭くなってはじめて直感は活動的となる。
直感は、体の中のキレイな血液である。キレイな血液が多ければ多いほど、直感が冴えるのであるが、がんをはじめ、どんな病気の人であっても、キレイな血液、キレイな細胞を持ち合わせている。これらのキレイな血液や細胞に従うことが、体全体をキレイな血液と細胞で満たすことになる。
「抑圧された感情を解き放つ」ことが末期がんから生還した人たちに共通していたことは、心身一如、心と体は同じであるということを物語る。体にシコリやカタマリのある人は心にも抑圧した感情が大きな塊となって存在する。体をほぐすことと、抑圧された感情を解き放つことは同時進行的であるのが望ましい。体のコリ・シコリが解れてくると抑圧された感情が解放されてくるのであるが、抑圧された感情を解き放そうと意識を向けると、より深いところの感情が解放されて、体のより深い所のコリやシコリが解れてくる。
人は本来、心地よいことは積極的に行動し、心地よくないことはしない。抑圧された感情やコリとシコリが増えた体は、心地よくないことをしてきたり、心地よくないけれど、しなくてはならないと錯覚して生きてきてしまったのだ。食べものにおいても、からだの芯の細胞が喜ぶようなものばかり食べていたら、心にも体にもコリ・シコリはできなかった。ただ、この世というものは、慈悲深い。私たちの心と体にコリやシコリを作って、コリのない体、シコリのない心がいかに素晴らしいかを教えてくれる。
がんだけでなく、多くの病気に共通しているのは、心と体を抑圧してきた生き方にある。生き方の中心を成すのが食べ物・食べ方である。食べ物、食べ方が不自然なものであれば、言葉や行動でそれらの排毒をしようとするから、家族や身の回りの人にそれらの毒素を振りまいてしまう。毒素の発散方法がスポーツや運動、歌などに向けられれば、他の人への迷惑にならないのだが、往々にして他者へ向けて毒素を発散させてしまうことは少なくない。
抑圧された感情を解き放つのは、体の中の抑圧された毒素を解毒・排毒させることが近道である。体の中のコリやシコリは抑圧された感情と同じである。
抑圧された感情を家族や友人、仕事の同僚などへ、憂さ晴らしのように発散すれば、「毒素の塊」と、周りからの目が定着してしまい、家族であっても離れていってしまう。
抑圧された感情を解き放つのに最もよい方法は、食を断つことである。断食をすると、体の中のコリとシコリが分解解毒されていく。コリとシコリの排毒反応で体がだるくなったり、頭痛がしたり、足が重くなったりすることがある。それらの排毒反応の時は、排泄されている毒素を解毒できるような飲み物を摂って、ゆっくり休むか、大いに体を動かすか、その時の状況にあわせて対処すれば、驚くほど短時間にスッキリして爽快となる。
体のコリとシコリが解れてくると、抑圧されていた感情が自然と解放されてくる。人間とは不思議なもので、抑圧された感情が解き放たれると、抑圧されていたこと自体に有り難さを感じる。難あり有り難し、という感覚をはじめて知る。
体のコリ・シコリが解れ、抑圧された感情が解放されると、人間は自然と前向きになる。生きることの喜びを全身で味わうことができる。そんな生き方を求めて生きていると、自然と周囲の人は応援してくれて、中には協力に支えてくれる人が出てくる。
自分の病気から始まり、自己浄化を求めて生きていると、様々なことに気づくようになる。
病そのものは気づきであったこと、難しい問題は自らの鍛錬であったことを知る。周りの人がいなければ自分は存在しない、自他一体の考えに至る。自分の魂は太陽、大地そのものであることを知る。魂(たましい)は「玉強い」であり、「玉静い」であることに気づく。この世に存在するものはすべて動いているように、私たちもまた「動いていたい」「生きて、その喜びをみんなでともに分かち合いたい」と自然にそんな気になってくる。