自然と化学物質

 自然を見渡してみると、毎日、朝日が昇り、明るくなって、鳥や動物たちは動き回って、もちろん人間も活動して、夕日が沈んで、暗くなって、夜になります。曇りの日や雨や雪の日もありますから、毎日が明るいわけではありませんが、夜のように暗い日はありません。自然は毎日、暗い時と明るい時を交互に私たちに与えてくれます。もしも私たちが自然と一体的な生活をしていたら、自然のリズムに同調して、曇りや雨や雪の日のように気分もカラッとしない日が時々はあっても、ほとんどは毎日体も心もスカッと晴れやかで、夜になったらパタッと眠ることが出来るのです。
 朝日が昇って来ても寝床から起き上がれなかったり、夜になっても眠ることが出来なかったり、夜中に何度も目が覚めてしまうのは、体が自然から離れているよ、というサインであるのです。自然はスマートです。自然はリズムがあって心地よいものです。私たちの体と心も自然に同調していればスマートでリズムある生き方ができるのです。もし、そんな生き方ができていなかったら、体の中に不自然なものが溜まっているのか、または今も身体に不自然なものをため続けているかです。
 食べ物から不自然を取り込むことが現代では一番大きな元凶になっています。動物食や人工的なインスタント食品、化学添加物が使われたお菓子や総菜など、一般的な食糧品店のほとんどがそれで、自然な食品を探す方が難しい。
 食品だけではありません。洗剤や化粧品、衣類なども自然なものはほとんどなく、界面活性剤や人工染料を使ったものがほとんどです。住宅においても同様です。人工的な接着剤などを多用した住宅はシックハウス症候群が発症するくらいです。日本の国会の議員会館でもシックハウス症候群に悩まされる議員がいるくらいですから、日本の建築も食品と同様、根本的な問題があります。
 私たちの身の回り、特に衣食住に関しては、自然なものに囲まれて生きることが最も大事なことです。自動車や電車、飛行機なども移動の多い現代にあっては、衣食住に次ぐ触れる機会の多いものです。これらにも化学物質がたくさん使われています。長野新幹線が開通したばかりの頃、新車の新幹線「あさま」に乗ったら、ものすごい化学臭で閉口ならぬ閉鼻してしまいました。車にも化学物質がたくさん使われていますが、その化学物質を極力使用せずに車を作ろうと努力している海外のメーカーもありますから、日本車メーカーにも化学物質の弊害を伝えることは大事なことです。
 では、なぜ化学物質が体内に入ると私たちの体と心に問題を引き起こさせるのでしょうか。昔、実験用のネズミの背中にコールタールを塗ったら、背中がガン化したという話はあまりに有名です。ごま油とか菜種油とか植物性の油は肌にいくら塗ってもガン化しないのに石油を塗ったらガン化してしまう。これはいたって簡単なことで化学物質は体の中でうまく分解できないのです。化学物質の毒素をガン化することで分解解毒しようとしているといったらいいでしょう。
 そういう点からすると化学物質過敏症の方々は「いいものはいい、よくないものはよくない」という細胞レベルでの判断力がすぐれている人と言っていいでしょう。
 人間がこれから永続的に元気に暮らしていくには化学物質との付き合い方を再考しなくてはなりません。

 現代の病気と健康を考えると、化学物質は一番大きな問題を孕んでいます。化学物質が私たちのからだに入り込んでいなければ現代にある病気の大半はないでしょう。生活習慣病の根本原因に化学物質があります。欧米化された食生活が問題と云われますが、ヨーロッパの伝統的な食生活は身土不二に根ざし、病気を多発さるようなものではありませんでした。病気の根本原因はヨーロッパの伝統的な食生活ではなく、欧米が先駆けた化学物質が取り込まれた食生活にあります。
 肉、卵、乳製品、さらには養殖の魚介類などは、成長ホルモン剤や抗生物質抜きには語れません。家畜は自然な育て方をしていたら安価で毎日食べられるような食品ではないのです。
 動物食は、動物食そのものの問題ももちろんあるのですが、それ以上に動物食から取り込まれる化学物質に大きな問題があるのです。
 現代のマクロビオティックでは私たちの体に染みついたこれらの化学物質を如何に解毒するか、という問題が大きく横たわっています。生まれた時から化学物質を孕んでいるのが現代人の特徴です。さらに、生まれ落ちた環境にも化学物質がふんだんに使われ、食品にまで化学物質が入り込んでいる。宇宙的なものの見方をすれば、汚れた川に生み落とされたのが私たちであるのです。しかし、逆に考えると、汚れた川の掃除にこの世に舞い降りてきたのが私たちでもあるのです。
 化学物質を一切使わない生活は、飛躍過ぎて、現代ではなかなか難しい。もちろん、一切の化学物質を使わない生活をする人がいることは人類の叡智になります。ただ、多くの人と歩を進めていくのに現実的に努力できることは、まずは食べ物の化学物質を減らして、無くしていくことです。食べ物から化学物質が体内に入らなければ、人間は自然な生き方に目覚めます。自然な生き方が心地よく、元気と本気が湧き起こってきます。化学物質が入らない体は「やすらぎ」を感じます。人間は心底やすらぎを感じた時に本当の力が出るようになっています。
 体の中の化学物質を解毒排毒していくことが、現代のマクロビオティックの大きな使命です。食養の食べ方と生活に化学物質を排毒する術がつまっています。掃除、玄米食、断食は排毒には必須です。もちろん玄米や断食が合わない人がいますから、体質と体調を考慮することはひじょうに大事です。そんな人のために半断食や塩断ち(無塩食)を進める場合も多々あります。
 食に陰陽があるように化学物質にも陰陽があります。排毒症状に陰陽の症状があらわれます。毒素の陰陽に合わせた食と手当て、生活を繰り返していくことが、浄身、浄血、浄心に繋がります。この世の掃除に舞い降りた人生、キレイになることが何よりの喜びです。そんな人が一人でも増えたら、この世はきっと本当の意味で楽園になることでしょう。