ひきこもりと安らぎ

 小田原にある「はじめ塾」を開設された和田重正先生は「人間の本当の力というものは安らぎの中から生まれる」と云われました。安らぎとは何かと、立ち止まって考えてしまう現代は、安らぎの喪失した社会といっても決して大げさではないでしょう。
 中高年から子どもたちまで、家族以外の人間関係が希薄で家に閉じこもっている「ひきこもり」状態の人たちが全国に100万人以上いると云われます。その中でも40~64才の「ひきこもり」状態の人は61万人と全世代の中でもっとも多いというのです。この数字が何を意味し、「ひきこもり」はなぜ起こるのか、「安らぎ」という視点をもたなければけっして解消されるものではないでしょう。
 不安は心身を委縮させ、腸内の絨毛を縮めさせます。腸内の絨毛が委縮すると腸内細菌が減り、活動も低下します。体内の最大免疫器官である腸の働きが鈍れば、力を発揮したくてもできません。免疫は異物を排出する力ですから、腸内の働きが落ちると様々な異物を排泄できず、体にため込んでしまいます。腸内には脳に次いで多い神経細胞も集まっていますから、腸の活動が低下すれば、意欲も減退します。不安は悪循環の大元締めといえます。
 明治維新から日本は、西欧諸国の近代化を目指してひた走ってきました。1930年代には「膨張する日本」などと云われ、軍事と経済においては特に世界で大躍進を遂げました。1945年の敗戦からは軍事の面においては相対的に縮小しましたが、経済においては戦前以上に膨張しました。明治、大正、昭和はある意味において、日本人のエネルギーが拡散した時代でもあったのです。これは大きく見ると、江戸時代に培われた「安らぎ」のエネルギーが明治、大正、昭和に爆発したのです。鎖国という陽のエネルギーが明治、大正、昭和で拡散して陰性になったのです。時代は陰陽そのものです。陰性に拡散してしまったエネルギーを内に溜め込んでいる状態が、「ひきこもり」なのです。江戸時代の鎖国とは、随分と形が違いますが、陰陽の目から見れば、100人に1人が「ひきこもる」現代はある種の鎖国であるのです。
 「ひきこもり」状態の人を無理矢理に社会に出すことはできません。安らぎのエネルギーが充実してはじめて、人は他者との関係を築けます。母からの絶対的な安心がなくては子どもが成長できないように、ひきこもっている人に大切なことは「安らぎ」なのです。
 「安らぎ」のもっとも大きなものは母の手料理です。母の手料理に勝る安らぎはありません。もちろん、母の手料理は自然とつながったものでなくては、母も作り続けることはできません。
 マクロビオティック運動とは母の手料理を次世代につなぐ運動といっても過言ではありません。
 しかし、40~64才のひきこもっている人たちには、すでに母親が亡くなっていたり、料理を作ることができない母親も少なくないはずです。そんな人は、みずからで自らの食を正し、腸をキレイにしていくのです。わたしたち日本人は、日本人に合った食事をすることで、腸内は安定します。腸が元気になると心は安らぎます。
 「安らぎ」を失ってはじめて、安らぎの大事を知ることができたのですから、「ひきこもる」ことほど有難いものはありません。「ひきこもり」はダレのせいでもなく、わたしたちにおとずれた必然なのです。
 不安を取り除き。心から安らいだ状態になると人は自然と力を発揮するようになります。それが食であり愛であるのです。