虫刺されと食養

 虫の季節がやってきました。蚊やハチに刺されたり、山に行けばさまざまな虫の攻撃(?)にあう時季になりましたね。
 多くの虫は人間と違って腸内が酸性で調和しています。人間は弱アルカリ性が安定した形ですから、逆です。人間と虫はある意味において陰陽の関係です。好むものが逆ですから、地球上で棲み分けをしていると言ってもいいのです。地球を大きく見渡すと虫と人間は共存しています。食べ物も住環境も違うわけです。体そのものが違う。
虫は酸性食品を好むわけですから、虫に刺されるということは身体が酸性化していたということです。虫に刺されやすいということは、体の体液をアルカリ化しなくてはなりませんよという、虫を通しての天からのアドバイスです。
 体をアルカリ化させてくれる代表は日本人にとっては梅ではないかと思います。
 体の左側をよく刺される人は陰性な酸化食品が多く、右側を刺されやすい人は陽性な酸化食品が多かったと、食養指導の体験からわかったことです。陰性な酸化食品の代表は夏場であれば冷たいアイスクリームや清涼飲料水でしょうか。陽性な酸化食品は焼肉やハンバーグ、卵焼きなど肉類ではないかと思います。
 手当ての食品は細かく見れば多々ありますが、シンプルな食アドバイスでは、左側を刺されやすい人には梅干、右側を刺されやすい人には梅肉エキスがいいと思います。もっとシンプルには梅干と梅肉エキスを少量ずつ食べてみて、おいしい方を摂れば体はスムースにアルカリ化します。どちらもおしくなかった人には違ったものが必要です。両方おいしければ適度に両方を毎日少量ずつ摂っていけばいいのです。
 蚊は体から発せられる炭酸ガスを目当てに集まるといわれます。しかし、最近では炭酸ガスだけでなくプラスアルファがないと蚊は集まるものでない、と言われるようになりました。そのプラスアルファが酸化物とニオイだと私は想像しています。
 鶏肉を食べ過ぎた時の体のニオイと、卵を食べ過ぎた時の体のニオイには違いがあります。動物性食品は体を酸化させますが、それぞれの種類によってニオイも違えば、発散される体の場所まで違うのです。
 トリの手羽を食べれば、それらのタンパク質は腕に優位に集まり、肩ロースを食べれば肩に優位に集まるものです。魚のタンパク質は下半身、特に足に集まりやすい。身体の特定の場所を集中的に刺されたなんていう時は、ある種の排毒反応をしていたと想像できるのです。
 肌からの手当て(外用手当て)をいくつか紹介します。
 蜂に刺されたら生の玉ねぎの汁を塗るとよいです。生の玉ねぎをすりおろし、絞って汁を取り出します。その汁をハチに刺された部分にすり込みます。針が残っているようならば取り除く必要があります。玉ねぎだけではありません。ごぼう、れんこん、大根の汁もよいです。長ねぎの青い部分のヌメリもよいです。ネギに含まれる硫化アリルが蜂の毒が引き起こす炎症や痛みを抑えるといわれます。よもぎ、オオバコ、ドクダミなどの野草を揉んで患部に貼っておくだけでも十分手当てできます。柿の葉を揉んで貼るのもよいです。蜂に刺された時はすぐに梅干を口にしたり、生姜を入れない梅生番茶を飲むと安心です。蜂に刺される前には果物や糖分を摂り過ぎていたことが多いのです。

デコさんの生き方Part2

 中島デコさんの自然体と命の全体観はどのように培われてきたのでしょうか?
 デコさんは東京生まれの東京育ちです。都会で育ってきたデコさんは学生時代に演劇をしていたといいます。演劇の先輩からマクロビオティックのことを教わり、十代からマクロビオティックを実践し始めたというのです。その先輩は橋本宙八さんといって、今ではマクロビオティックの重鎮・大御所の人です。橋本宙八さんのマクロビオティックの熱い想いがデコさんにもひそかに伝わったのではないかと思うのですが、当のデコさんは、どこ吹く風、自分の感性がマクロビオティックにビビッと来たというのです。
 デコさんはリマ先生(桜沢如一の妻)から食養料理を習っているのですが、お話し会前の打ち合わせの時に私が「リマ先生からの影響がマクロビオティックを続けてきた原動力になっていますか?」という質問をしたら、即答で「全然」とあっけらかんとして言うのです。私はこれがデコさんの素晴らしいところだと感じ入ったのです。私などは、文章や講演から、桜沢如一や大森英桜から大きな影響を受けて、マクロビオティックの道が始まりました。そして今も、その影響は大きく、自分の基礎を成していると思うのです。ところがデコさんは、そういったロジカルなところは「ほどほど」に、あくまで感性でそれを成してきたのです。ですからリマ先生への感想も、八十を過ぎたご高齢でありながらも「しなやかにかわいらしく、それでいて力強い女性」に驚き、マクロビオティックをしていたらこんな女性になれるんだという憧れを抱いたというのです。とはいえ、それよりもっと大事なことは感性だとデコさんは言いたいのです。
 東京生まれ東京育ちのデコさんが千葉の田舎で農的暮らしを営むようになったのは、感性優位のマクロビオティック生活をしていたからだといいます。マクロビオティックの基礎となっているのは、自然の植物であり、自然の植物から造られる食物です。日本人であれば田んぼからとれるお米や畑からとれる大豆や野菜、そして、みそ、しょうゆ等の発酵食品が私たちの食生活の基本になります。ただマクロビオティックを実践していたら、より自然に生きたいという想いが強くなってきて、それを実現したに過ぎないというのです。デコさんの自分の感性を実行に移すところに多くの人が憧れるのです。
 自分の感性を大切にマクロビオティックを実践していたらいつの日か、自然な農的暮らしをして、出産も育児も自然に行っていたというのです。その中で、人間関係も自然体、一期一会、「こだわらず、とらわれず、かたよらず」、Let it be「あるがまま」に暮らしてきたといいます。もちろん中島デコさんも人間ですから、喜怒哀楽あったといいます。それでも喜怒哀楽のすべてがいとおしく、中島デコという人間を作っていったのだと思います。人間の喜怒哀楽そのものが陰陽であり、自然であるのですから。
 デコさんは農的暮らしを基本にマクロビオティックを実践しながら、都会の生活では難しかった土と一体となる生活を実現していきます。デコさんの命の全体観は土と繋がる生活の中ら醸し出されてきたのではないかと思うのです。私たちはこの大きな大宇宙の中で生きています。地球という大地はこの宇宙を絶え間なく動いています。大きく見れば、大地そのものが宇宙であり、そこに住む私たちも宇宙そのものだと思うのです。土に触れ、土から育まれた植物の命をいただく生活を通して、「命はひとつ」であるという感性が育まれるものだと思います。
 都会的暮らしは農的暮らしが命を継続していくうえでなくてはならないものだと認識させてくれます。暮らしという点においては陰陽の関係でもあります。デコさんはこの都会的暮らし、農的暮らし、陰陽両方の暮らしを体験してきたのです。この陰陽の暮らしから感性を高め、自然体と命の全体観が培われてきたのではないかと思うのです。