穀物のある所に人が集まり、人が集まるところに文明が発生しています。人類の歴史を見渡してみると、穀物と人間、穀物と文明は切っても切れない関係性にあるようです。この穀物の消費量が、世界全体では増えているのですが、日本においては減っているのです。お米の消費量はこの70年間で約1/3ほどにまで減りました。少子高齢化により食べ盛りの子どもの数が激減していますから、お米だけでなく、その他の食も減ってきています。穀物を浪費して作り出される食肉(家畜肉)の消費量も減りだしましたから、穀物の消費量は減少の一途です。
肉食が減ることはいろいろな面からよいことですが、日本人においてはお米そのものの消費量が減ることは陰にも陽にも問題が出てきます。日本人の腸内環境はお米を食べることで安定してきました。腸内細菌の主たるエサになるのはお米です。お米を食べないと本来の腸内細菌の働きをしないのです。便秘の原因の主たるものもお米不足です。さらには日本人だけでなく、人間の遺伝情報の大きなところにお米が大きく関わっています。動物の遺伝情報と植物の遺伝情報は多くの部分で共通性があるようですが、その中でも特に、人間の遺伝情報はお米の遺伝情報と重なるところが人間と植物間では一番多いといわれます。
昨今の円売りから日本離れ・日本の衰退があらわになってきましたが、これは元をたどれば米を食べなくなったことに端を発していると私は考えています。食養の祖・石塚左玄は、人間は穀食動物といいましたが、文明という点からしてもまさにその通りなのです。
お米は炭水化物だから太るなどといわれていますが、和食を食べてきた伝統的日本人に肥満の人はいませんでした。和食の基本であるご飯、みそ汁、漬物を中心に食べていたら、肥満体になることはまずないのです。日本人の肥満の原因は、身土不二でみて日本の環境にあわない肉食や砂糖食(現代は人工甘味料食)、脂肪食から来るものです。そして何より、和食を基本にしていると体と心が軽くなりますから、運動習慣がつくのです。キビキビと動くことが心地よくなってくるのです。ご飯、みそ汁、漬物を中心に食していると、この三種から日々のエネルギーを得ようとしますから、お米は白米よりも玄米に近いものを欲するようになります。
食養をこれから始める人は、お米は食べやすいものから始めたらいいのです。白米でもいいと思います。白米が玄米よりもおいしく感じたら白米から食養をはじめたらいいのです。そのうちに、白米ごはん、みそ汁、漬物では物足らなくなってきて、白米に雑穀を入れた方がおいしくなったり、分搗き米がおいしくなったりしてきます。さら年月を経ていくと、玄米ごはん、みそ汁、漬物がおいしくなってくるのです。もちろん、季節、体調、年齢、男女、いろいろな条件次第で主食は微妙に変わってきます。それでも、ご飯、みそ汁、漬物を中心にしていけば大きく間違うことはないのです。
マクロビオティックはその土地の伝統的な食と生活を基本にして、陰と陽という見方を生活・生き方に応用したものです。伝統を活かすという保守的生き方であるのと同時に、陰陽思考という変化を恐れない考え方を持ち合わせた革新的思考でもあると私は考えています。保守と革新も陰陽の関係だと思いますが、保守と革新、陰陽を併せ持っているのがマクロビオティックではないかと思うのです。
日本人が本来の生命力をもって生きていくその基礎となるところに、お米を中心とする生き方が欠かせないと食養指導を通して確信したのです。