冬の断食・寒い季節の体質改善

 和道のある群馬(富岡市)は、冬であっても雪はめったに降ることはないが、真冬はそれなりに寒くなる。わが家の子どもたちは冬になると、庭にある水道のところでバケツに水を張って、毎朝できる氷の厚さを測るのが日課になっている。12月の中旬くらいから氷ができることが多いから、大体そのあたりから真冬ということになるのだろう。(今年は暖冬気味で霜は降りたが、氷はまだ張らない)
 冬は太陽という陽性の影響が少ないので、寒さは温かさに比べ陰性だ。陰陽は巡り巡ることが本質だから、陰性は陽性をひきつけ、陽性は陰性をひきつける。二十四節気では、立冬から本格的な陰性な季節が始まる。そして、冬至ごろから陰性がより強くなり、大寒で陰が極まる。
 大寒を過ぎると陽が芽吹きだし、節分、立春と続いて陽が少しずつ大きくなっていく。「陰極まって陽」というのが大寒の時季でもある。これも陰陽の巡り巡る本質を言いあらわす。とはいえ、絶対的な陰も陽もないのが宇宙の理であるから、立冬や冬至の陰の中に陽があり、陰の極みである大寒の中にさえ陽がある。
 では、この陰の大きい寒さで凍てつく季節に陽をどこで見つけることができるだろうか。
 寒さに凍えて震える心身は、ひたすら温かさ・温もりを求める。それこそが陽であり、生命でないかと思う。寒さ増すこの時季に冬の菜っ葉は甘みを増す。これもまた陰極まって陽を体現しているのではないか。冬の菜っ葉は春夏の菜っ葉に比べてずっと根が太い。太陽の力が弱いからこそ、大地の力をより吸収しようとして根をグングン張る。寒さという陰によって陽を増しているともいえる。冬は殖ゆ(ふゆ)とも昔からいわれるようだが、これも陰の中に陽が隠されているような気がする。
 古くから寒の時季の修行として冷たい海や川に入って身を清める水行が行われていた。冷たい水による禊の行である。これもまた陰極まって陽を体現した心身の健康増進行事と言っていい。植物が寒さによって根の張りを増すのと同じように、私たちの精根は寒さによって鍛えられる。大寒の時期は精・生命力の根を張る時であったのだ。
 何度も言うように、大寒は陰性が極まる時である。環境が陰性であれば、私たちは陽性を強くして生きていく。寒い冬に体を冷す陰性なものをたくさん摂れば命の危険性すらある。陰性な時季には体を温める陽性なものがおいしい。秋が深まり冬を迎える頃から陽性の食物の摂取が増えていく。陽性の代表である塩気も増えていく。おせち料理はその最たるものである。塩気と油気を充分使い、さらに時間をかけて煮込んだものが多い。手間をかけて作ったお餅など陽性な食品が冬に合う。寒い陰性な時季には特に、陽性な食品が大事なのだ。
 陰性な寒い冬には、私たちの体は陽性になって対応しようとする。そのために陽性な食物がおいしく感じるのだ。では、そんな季節に断食をしたらどうなるのだろうか。
 寒い陰性な冬に断食をすると、私たちの体は、体の中に眠っている陽性な細胞をエネルギーに変えて環境と調和しようとする。過去に摂ったり、ご先祖から受け継いだ、陽性な食物から作られた細胞をエネルギーに変えるのだ。
 肉、卵、乳製品、魚介類を沢山食べてきた人は、陽性な細胞を過剰に抱えているので、冬に断食をすると、それらの細胞を排毒しようとする。昔から、寒の時季の行を大切にしてきたのは、陽性な毒素を抜くのは至難の業であることを知っていたのかもしれない。現に、冬の方が代謝が上がるわけだから、デトックスに持って来いなのが冬である。
 冬は体質改善の季節である。冬にしっかり排毒をすることが、後の季節、春や夏を乗り越える肝腎なことである。

平和運動としてのマクロビオティック

 10年以上前、輸入汚染米が問題になったことがあった。酒、菓子、給食、コンビニのおにぎりなどへの輸入汚染米の混入が明るみになったのだ。
 日本は減反政策(コメの栽培禁止)をしながら、なぜ外国産米を輸入するようになったのか。1990年、アメリカはイラクとの戦争直前、イラクへの経済制裁でイラクへの米の輸出を禁止したのだ。イラクはアメリカ米の一番の輸入国であった。アメリカの米農家は、行き場をなくした米の在庫を大量にかかえてしまったのだ。アメリカ政府は日本政府に農業の面でも圧力をかけるようになる。そのひとつが減反政策であったのだ。日本は減反を増やして米の在庫を少なくし、並みの不作でも米不足になり輸入しなければならないように恣意的に操作していたのだ。そして、1993年(平成5年)日本は大冷害となり、米の大不作となる。40代以上の日本人は記憶にある人も少なくないと思うが、タイ米が輸入されるというニュースが世間を騒がせた。しかし、本当の狙いはタイ米の輸入ではなく、アメリカから米を輸入する名目が立ち、77万トンものアメリカ米が輸入されたのだ。それもアメリカで何年も眠っていた在庫米(古米)が輸入されたのだ。
 その後、毎年需要もないのに77万トンから100万トンに拡大して米を輸入している。WTO(世界貿易機構)で約束させられた日本の米輸入量は「日本の米生産の10%にあたる量」を海外から輸入してほしいといういわば口約束で、義務ではないのだが。日本は日本の米だけでも充分まかなえ、さらに今では余るほどなのに、毎年100万トンものアメリカ米などの海外米が輸入されている。1990年からすでに30年以上経った今は1000万トン以上もの古米を在庫しているのだ。それも、保存の効く籾米ではなく、数年もすると劣化してカビが生えてしまう玄米で保存している。もちろん農薬漬け、保存薬漬けの玄米だから、カビが出だしたら止まらない。
 この日本の農業政策は一体何なのかというと、自動車などの工業製品を海外に売るための交換条件として、義務ではなく、いわば商慣習として米を輸入している。命である食を売り物にした本末転倒政策なのだ。
 5月(2023年)に広島で行われたG7首脳会議でも、表面上のことしかニュースに上がっていなかったが、裏では大変なことが話し合われていたようだ。世界はすでに第三次世界大戦に突入していると、エマニュエル・トッドという歴史家が言っている。G7諸国対中露諸国という対立。
 日本はG7のひとつだから、G7寄りの情報しか見聞きすることは稀だが、実際の世界情勢は中露に傾きつつあるといわれる。グローバルサウスといわれるインド、ブラジルなどの国々は、アメリカ主導の世界秩序に辟易しているのだ。先に挙げたアメリカの日本への汚染米の輸入にあるようなことが、世界の国々に対しても行われているのだ。
 ロシアとウクライナの戦争も、戦争をしたいアメリカの思惑通りのことが起こっている。軍需産業は世界で一番大きな産業といわれるが、その大半がアメリカにあり、アメリカの軍需産業は定期的に戦争が起こらないと経済が回らないのだ。厳密にいえば、戦争を起こさないと、と言った方がいいだろう。
 アメリカの中でも、意識ある人たちが立ち上がって、アメリカを正常なアメリカに戻そうという人たちもかなり多くいる。その代表がトランプ前大統領。トランプが大統領時代は、アメリカは戦争をしていなく、加担もしていないのだ。それが、軍需産業の後ろ盾をもつバイデンが大統領になってからは、表立っての戦争はないが、ウクライナに軍事支援をして後方から戦争を煽っているのだ。戦争中毒の人々が牛耳るアメリカなどと、アメリカ国内でも皮肉る人々がいる。
 戦争をしないと回らない経済というのは、もうすでにそれだけで破綻しているといっていい。心が病んでいるのだ。20世紀初頭、ヨーロッパに渡った桜沢如一は、軍需産業のための戦争(第一次世界大戦)を目の当たりにする。人が死ぬことで経済を回す発想そのものを病んでいると感じた桜沢如一は、ヨーロッパでこそ食養を広めなければならないと決意する。食を調えることによって体が調うだけでなく、心が穏やかに調う。マクロビオティックを平和運動としたのは、桜沢の切なる願いが込められている。
 ロシアとウクライナの戦争が終わる前に、パレスチナとイスラエルの戦争が始まってしまった。現代の世界情勢は平和とは程遠い、むしろ逆行しているのではないかとさえ思える状況にある。
 しかし、世界ではヴィーガンやベジタリアンの人々がものすごい勢いで増えてきている。菜食を基本とする人々がある一定以上になった時、世界から紛争が減っていくはずなのだ。人は体も心も食次第である。お互いをゆるし合える心が湧きおこってくるのも食次第である。