平和運動としてのマクロビオティック

 10年以上前、輸入汚染米が問題になったことがあった。酒、菓子、給食、コンビニのおにぎりなどへの輸入汚染米の混入が明るみになったのだ。
 日本は減反政策(コメの栽培禁止)をしながら、なぜ外国産米を輸入するようになったのか。1990年、アメリカはイラクとの戦争直前、イラクへの経済制裁でイラクへの米の輸出を禁止したのだ。イラクはアメリカ米の一番の輸入国であった。アメリカの米農家は、行き場をなくした米の在庫を大量にかかえてしまったのだ。アメリカ政府は日本政府に農業の面でも圧力をかけるようになる。そのひとつが減反政策であったのだ。日本は減反を増やして米の在庫を少なくし、並みの不作でも米不足になり輸入しなければならないように恣意的に操作していたのだ。そして、1993年(平成5年)日本は大冷害となり、米の大不作となる。40代以上の日本人は記憶にある人も少なくないと思うが、タイ米が輸入されるというニュースが世間を騒がせた。しかし、本当の狙いはタイ米の輸入ではなく、アメリカから米を輸入する名目が立ち、77万トンものアメリカ米が輸入されたのだ。それもアメリカで何年も眠っていた在庫米(古米)が輸入されたのだ。
 その後、毎年需要もないのに77万トンから100万トンに拡大して米を輸入している。WTO(世界貿易機構)で約束させられた日本の米輸入量は「日本の米生産の10%にあたる量」を海外から輸入してほしいといういわば口約束で、義務ではないのだが。日本は日本の米だけでも充分まかなえ、さらに今では余るほどなのに、毎年100万トンものアメリカ米などの海外米が輸入されている。1990年からすでに30年以上経った今は1000万トン以上もの古米を在庫しているのだ。それも、保存の効く籾米ではなく、数年もすると劣化してカビが生えてしまう玄米で保存している。もちろん農薬漬け、保存薬漬けの玄米だから、カビが出だしたら止まらない。
 この日本の農業政策は一体何なのかというと、自動車などの工業製品を海外に売るための交換条件として、義務ではなく、いわば商慣習として米を輸入している。命である食を売り物にした本末転倒政策なのだ。
 5月(2023年)に広島で行われたG7首脳会議でも、表面上のことしかニュースに上がっていなかったが、裏では大変なことが話し合われていたようだ。世界はすでに第三次世界大戦に突入していると、エマニュエル・トッドという歴史家が言っている。G7諸国対中露諸国という対立。
 日本はG7のひとつだから、G7寄りの情報しか見聞きすることは稀だが、実際の世界情勢は中露に傾きつつあるといわれる。グローバルサウスといわれるインド、ブラジルなどの国々は、アメリカ主導の世界秩序に辟易しているのだ。先に挙げたアメリカの日本への汚染米の輸入にあるようなことが、世界の国々に対しても行われているのだ。
 ロシアとウクライナの戦争も、戦争をしたいアメリカの思惑通りのことが起こっている。軍需産業は世界で一番大きな産業といわれるが、その大半がアメリカにあり、アメリカの軍需産業は定期的に戦争が起こらないと経済が回らないのだ。厳密にいえば、戦争を起こさないと、と言った方がいいだろう。
 アメリカの中でも、意識ある人たちが立ち上がって、アメリカを正常なアメリカに戻そうという人たちもかなり多くいる。その代表がトランプ前大統領。トランプが大統領時代は、アメリカは戦争をしていなく、加担もしていないのだ。それが、軍需産業の後ろ盾をもつバイデンが大統領になってからは、表立っての戦争はないが、ウクライナに軍事支援をして後方から戦争を煽っているのだ。戦争中毒の人々が牛耳るアメリカなどと、アメリカ国内でも皮肉る人々がいる。
 戦争をしないと回らない経済というのは、もうすでにそれだけで破綻しているといっていい。心が病んでいるのだ。20世紀初頭、ヨーロッパに渡った桜沢如一は、軍需産業のための戦争(第一次世界大戦)を目の当たりにする。人が死ぬことで経済を回す発想そのものを病んでいると感じた桜沢如一は、ヨーロッパでこそ食養を広めなければならないと決意する。食を調えることによって体が調うだけでなく、心が穏やかに調う。マクロビオティックを平和運動としたのは、桜沢の切なる願いが込められている。
 ロシアとウクライナの戦争が終わる前に、パレスチナとイスラエルの戦争が始まってしまった。現代の世界情勢は平和とは程遠い、むしろ逆行しているのではないかとさえ思える状況にある。
 しかし、世界ではヴィーガンやベジタリアンの人々がものすごい勢いで増えてきている。菜食を基本とする人々がある一定以上になった時、世界から紛争が減っていくはずなのだ。人は体も心も食次第である。お互いをゆるし合える心が湧きおこってくるのも食次第である。