骨粗しょう症の食養と生活

 「さみしくて、さみしくて、いられない」と電話があった。遠距離恋愛をしている人ではなく、背骨を圧迫骨折した男性からであった。前回のコラムでも触れたが、60代の男性が圧迫骨折して、和道に養生に来ていた。その後、自宅に帰って、ひとり食養生活をしながらリハビリを続けているのだが、動きもままならなく、人との交流もあまりなく、どうしてもうつ的になってしまう。さみしさを訴える相手がいるだけまだいいが、もしそういった人がいなければ、本当にうつ病になってしまうかもしれない。
 人間は長いこと、大家族の中で日々の暮らしを営んできた。両親、祖父母、曾祖父母、そして兄弟姉妹と身を寄せ合って暮らしてきた。私が生まれた時のわが家もそれで、四世代同居であった。今では大家族は少なくなって、一人暮らしの世帯の方が多いという。大家族のストレスも無いとはいえないが、体と心への深刻なストレスは孤独な生活に勝るものはない。一人暮らしはそもそも、冷蔵庫、洗濯機、掃除機など、家電製品が登場した近現代になってはじめて生まれた。人類は何万年と集団生活を送っていたわけであるから、一人での孤独な生活に、私たちの脳と体は追いついていないし、これからも慣れるとも追いつくとも思えない。
 「独りは本当に虚しいものですね」圧迫骨折の男性は、体が思うように動かせず、その「さみしさ」から、人間の本質的な生き方を知ったという。ちゃぶ台ひとつを大家族で囲んでいたのが、そのちゃぶ台が切り売りされて、一人暮らしや核家族が誕生した。一つのちゃぶ台よりも、いくつものちゃぶ台になった方が経済効果は確かにあった。高度経済成長というものは、見方を変えると大家族が崩壊して、現代の独居老人をつくる下地になっていたのだ。
 人間が肉体的、心理的に健康を保つのに、人と人との交流は無くてはならないものだろうと思う。人は人と交流してこそ、体と心が動き出す。もちろん、山奥や無人島で独り自給自足的な生き方をしている人は、絶えず動いて健康を保っているだろうが、稀である。
 日本人は農的暮らしを基礎として、人間同士支えながら生きてきた歴史がある。そして、農的暮らしの中心に稲作があり、みそ、醤油などの発酵文化がある。日本と日本人は、稲作文化と発酵文化の二本立てで、これまでの長い歴史を生き抜いてきた。これは、私たちひとり一人の体をみても、おコメとみそ汁をいただくことが健康を保つ最も大事であることとシンクロする。骨粗しょう症を改善する食養生活は、おコメとみそ汁をいただき、この完全食からいかに栄養素を吸収するかにかかっている。骨を豊かにする方法は、おコメとみそ汁からいかにエネルギーを吸収するかである。この吸収力を高めることに尽きるのではないかと考えている。
 吸収力を高めるのに大事なことは、まずは唾液をよく出すこと。ドライマウスでは、おコメとみそ汁から上手に栄養を吸収することができない。口は体のオアシスでなくてはならない。そのためには、よく噛むこと、よく話すこと、重たいものを持つことである。重たいものを持つと、歯を食いしばったり、腕を使うことで喉から顎にかけての筋肉が活性化して、口呼吸が無くなっていく。口呼吸というのは、運動不足で口から首にかけての筋肉が未発達であることを物語る。望診では、口をあけているのは、「幼い気持ちが抜け切れていない」ということを示す。重たいものを持ったり、手足を使って体をよく動かすと、口から首にかけても筋肉が発達して口呼吸が改善する。
 唾液はさらに、細胞修復能力がある。口が潤うと、唾液が胃腸にも行き渡り、胃腸の機能が高まる。そして、定期的に本くずを食べることで、腸内環境が整い、栄養吸収が安定する。腸には何兆個ともいわれる腸内細菌が棲みついているといわれるが、腸内細菌の善玉菌のエサになるといわれるのが、おコメ、旬の野菜、海藻、発酵食品である。おコメ、みそ汁、時々のくず湯やくず練りに加えて、腸内細菌を活性化させる食物をいただくことが、骨にとっても大事である。