「時間がない、時間がない」、よく聞くフレーズである。洗濯機や食洗器、掃除機のお陰で、本当は時間が十分あるはずなのだけど、なぜだか時間がないと感じている人が多いという。実際の時間もどんどん短くなっている。東京、大阪間も新幹線では3時間弱、飛行機を使えば1時間とちょっとで行ってしまう。20年以上前、鈍行電車で日本を旅したときは、大阪まで1日では着かなかったのを覚えている。今話題の超電導リニアが開通してしまったら、東京大阪間は30分になるようだ。ヨーロッパに行ったときも、成田からパリまで12時間あまりで着いてしまった。
科学技術の発達が時間をどんどん短くしている。時間がドンドン短くなるがゆえに、私たち現代人は「時間がない、時間がない」というジレンマにおちいっている。能率、効率を求めれば求めるほど時間は短縮していくのだが、結果「時間がなくなっていく」。科学技術が結果的に時間ドロボウになっている。まさにミヒャエル・エンデの「モモ」のようなことが現代でおこっている。科学技術の発達は、時間を短縮するのと並行して、私たちの時間までも短縮してしまっているのかもしれない。
ひるがえって、「時間がない」ことは私たちの体でも同じようなことがおこっているのかもしれない。
体の中の飽和エネルギーを処理する時間がないのだ。処理とは消化吸収、分解排毒である。消化するにはあまりに多い空虚なカロリー。空虚であるからこそ多大なカロリーを摂取しているともいえる。さらに分解排毒がされにくい自然から離れた食品の氾濫。多くの化学調味料は石油から作られている。石油は地球が何万年もかけても分解されずに地下深くに溜まった動植物の死骸の油だ。何万年もかけて分解されなかったものが、私たちの体で数十年のうちに分解されるはずがない。
人類が初めて人工的に作ったガンは、ラットの背中に石油を塗っていたらガンができたという。そんな石油を食品や化粧品、シャンプーやリンスで体に使用していたらガンが国民病になるのは当たり前である。ガンこそ体の中で分解排毒できなかった細胞であるのだから。
体の中で飽和になったエネルギーの処理する時間がないがために、万事「時間がない」現象が生理的にも心理的にも引き起こされているのではないかと思う。
断食は時間ドロボウから時間を奪い返すモモではないかと私は思う。まずは胃腸を疲れから開放してあげることである。胃腸の疲れが解消し、細胞の疲れが解消されてくると、時間はどんどん生まれてくる。時間があるかないか、それは私たちの体のなかにその秘密がある。
断食を体験した人の多くは、体と心の中が整理されて、自分の本当の時間を取り戻している。
「合宿に来る直前までは、頭の中がごちゃごちゃでパンパン。気持ちもソワソワ、ずっと何かに追われているようで、ここ数日は何も考えたくない、と思っていました。それが今、合宿を振り返ると、ちゃんとできていて、頭の中はスッキリ、体も心も軽くなっています。本当に断食で自分を取り戻したようです」
断食を体験した人の多くがこのような感想が湧いてくる。そして、時間ドロボウから時間を取り戻したら、人は自然と夢や希望が湧きおこってくる。「ごちゃごちゃ、ソワソワの原因を作っていたのは、今やっていることが何に向かっているのかが明確になっていないからだと気づくことができた」と前述の人。時間を取り戻すには胃腸を軽くすることは「はじめの一歩」なのだと思う。
2024年6月
ライオンとゴリラの間
「肉をやめたら体力がなくなって、結局マクロビが続けられなかった」という人が少なくない。前回のブログで登場した圧迫骨折の男性も親戚から「肉や牛乳を摂らないから骨がもろくなるんだ」と言われて不安になったという。
戦後の日本は、動物食が増えても骨粗しょう症になる人が多いのであるが、動物性たんぱく質やカルシウムを摂らないと骨や体は造られないという栄養教育が多くの日本人にしみついてしまっている。そして、日本人は毎日のように動物性食品を食べるようになって60年以上が経つ。
多くの人の食養指導をしてきて、現代の日本人は、ライオンほどではないが、肉食によって血液やたんぱく質を造る腸内環境になってきているのを感じる。では、このままライオンのような腸になって、肉ばかり食べたらいいのではないかという人がいるのだが、問題はそう簡単ではない。
野生のライオンは毎日食事ができるわけでない。7~10日に一度しか食にありつくことができないという。むしろ、毎日肉食をしたら、腸をはじめとして臓器は疲弊してしまう。それよりなにより、肉食動物は寿命が短い。ライオンだけでなく、トラやチーター、ヒョウなども草食動物に比べたら寿命が短い。さらには、食物連鎖の関係で肉食動物が草食動物よりも個体数が多くなることは決してない。もしも人間が完全な肉食動物になったならば、肉食動物の宿命を同時に受け入れないとならない。
マクロビオティックは菜食主義ではないが、菜食を基本とした生き方を勧めている。20世紀初頭にヨーロッパに渡った桜沢如一は、西欧の侵略思想が肉食から来ていることを看破した。侵略思想だけでなく、西洋人の多くの病気も、過剰な肉食に起因していることを突きとめた。そして、桜沢は西欧に日本文化を伝えつつ、日本の食養をマクロビオティックと称して西欧人に指導するようになった。フランスでは桜沢の功績に文化勲章を与えていることからもその活躍がいかに大きかったがわかる。ヨーロッパでは桜沢のことを「西洋人を助ける東洋人」と言われていたという。
日本人の2人に1人が海藻からたんぱく質を造ることができる腸内細菌を持っているという研究がある。西欧人からはそれらの腸内細菌が見つかっていないという。これは、日本人が海藻をよく食べてきた証拠であり、肉食が少なかったという証でもある。
ベルギーを拠点にヨーロッパ全土でマクロビオティックを普及した大西恭子さんは、西欧人に海藻を食べてもらおうとヨーロッパで海藻料理の研究をした。ベルギーのテレビでは「マダム海藻」として紹介されるほどであったという。肉食を減らすのに、海藻を食べる習慣をつけることは意味のあることである。大西恭子さんも桜沢先生の妻・リマ先生から薫陶を受け、リマ先生からの使命でヨーロッパでマクロビオティックの普及に励まれていた。
霊長類最強といわれるゴリラは菜食である。葉っぱや果物ばかり食べて、180cm、200kgもの体を造っている。葉っぱや果物から血液やたんぱく質を造ることができる腸内細菌を有しているという。人間はライオンにはなれないから、菜食を極めてゴリラになったらいいのかというと、そういうことでもない。
人間は本来の人間になったらいいのだ。人間の特徴は穀物を中心に生きていくことである。日本人はご飯(コメ)、みそ汁、漬物である。西欧人は地域にもよるが、フランスではパン、チーズ、ワインである。これらの伝統食で私たちの腸内細菌は活性化する。それが、現代の日本は、過剰な動物食と食品添加物、砂糖や人工甘味料、身土不二を離れた食品の数々で病気を多発させている。「肉を止めたら体力がなくなった」というのは、腸内細菌が変化しようとしたからなのだ。肉から血液を造るのではなく、おコメや野菜から血液を造るようにシフトしようとする移行期に私たちは一時的に貧血になるのだ。
この移行期を上手に乗り切るのに、断食は大きな力になる。一時的に食を断つことで、体に蓄積した必要度の低いものが排泄される。そして、断食の明けの食事・回復食の時、乾いた砂に水をまくように、私たちの腸は回復食を吸収する。日本人であれば回復食に、おコメ、旬の野菜、海藻、本くず、発酵食品を食べることで、それらに相性のよい腸内細菌が棲みつく。この断食を習慣化すると、私たちは日本の伝統的な食生活で十分に血液やたんぱく質を造ることができる。ライオンでもなく、ゴリラでもなく、人間として生きることができる。
戦後の日本は、動物食が増えても骨粗しょう症になる人が多いのであるが、動物性たんぱく質やカルシウムを摂らないと骨や体は造られないという栄養教育が多くの日本人にしみついてしまっている。そして、日本人は毎日のように動物性食品を食べるようになって60年以上が経つ。
多くの人の食養指導をしてきて、現代の日本人は、ライオンほどではないが、肉食によって血液やたんぱく質を造る腸内環境になってきているのを感じる。では、このままライオンのような腸になって、肉ばかり食べたらいいのではないかという人がいるのだが、問題はそう簡単ではない。
野生のライオンは毎日食事ができるわけでない。7~10日に一度しか食にありつくことができないという。むしろ、毎日肉食をしたら、腸をはじめとして臓器は疲弊してしまう。それよりなにより、肉食動物は寿命が短い。ライオンだけでなく、トラやチーター、ヒョウなども草食動物に比べたら寿命が短い。さらには、食物連鎖の関係で肉食動物が草食動物よりも個体数が多くなることは決してない。もしも人間が完全な肉食動物になったならば、肉食動物の宿命を同時に受け入れないとならない。
マクロビオティックは菜食主義ではないが、菜食を基本とした生き方を勧めている。20世紀初頭にヨーロッパに渡った桜沢如一は、西欧の侵略思想が肉食から来ていることを看破した。侵略思想だけでなく、西洋人の多くの病気も、過剰な肉食に起因していることを突きとめた。そして、桜沢は西欧に日本文化を伝えつつ、日本の食養をマクロビオティックと称して西欧人に指導するようになった。フランスでは桜沢の功績に文化勲章を与えていることからもその活躍がいかに大きかったがわかる。ヨーロッパでは桜沢のことを「西洋人を助ける東洋人」と言われていたという。
日本人の2人に1人が海藻からたんぱく質を造ることができる腸内細菌を持っているという研究がある。西欧人からはそれらの腸内細菌が見つかっていないという。これは、日本人が海藻をよく食べてきた証拠であり、肉食が少なかったという証でもある。
ベルギーを拠点にヨーロッパ全土でマクロビオティックを普及した大西恭子さんは、西欧人に海藻を食べてもらおうとヨーロッパで海藻料理の研究をした。ベルギーのテレビでは「マダム海藻」として紹介されるほどであったという。肉食を減らすのに、海藻を食べる習慣をつけることは意味のあることである。大西恭子さんも桜沢先生の妻・リマ先生から薫陶を受け、リマ先生からの使命でヨーロッパでマクロビオティックの普及に励まれていた。
霊長類最強といわれるゴリラは菜食である。葉っぱや果物ばかり食べて、180cm、200kgもの体を造っている。葉っぱや果物から血液やたんぱく質を造ることができる腸内細菌を有しているという。人間はライオンにはなれないから、菜食を極めてゴリラになったらいいのかというと、そういうことでもない。
人間は本来の人間になったらいいのだ。人間の特徴は穀物を中心に生きていくことである。日本人はご飯(コメ)、みそ汁、漬物である。西欧人は地域にもよるが、フランスではパン、チーズ、ワインである。これらの伝統食で私たちの腸内細菌は活性化する。それが、現代の日本は、過剰な動物食と食品添加物、砂糖や人工甘味料、身土不二を離れた食品の数々で病気を多発させている。「肉を止めたら体力がなくなった」というのは、腸内細菌が変化しようとしたからなのだ。肉から血液を造るのではなく、おコメや野菜から血液を造るようにシフトしようとする移行期に私たちは一時的に貧血になるのだ。
この移行期を上手に乗り切るのに、断食は大きな力になる。一時的に食を断つことで、体に蓄積した必要度の低いものが排泄される。そして、断食の明けの食事・回復食の時、乾いた砂に水をまくように、私たちの腸は回復食を吸収する。日本人であれば回復食に、おコメ、旬の野菜、海藻、本くず、発酵食品を食べることで、それらに相性のよい腸内細菌が棲みつく。この断食を習慣化すると、私たちは日本の伝統的な食生活で十分に血液やたんぱく質を造ることができる。ライオンでもなく、ゴリラでもなく、人間として生きることができる。