食養料理と手当てのバイブル

 「お小水が出なくなってしまいました」と電話があったのが、私が食養指導に関わりだした当初のころである。師の大森英桜の傍らで食養指導を学んでいた時であった。食養では利尿作用として、第二大根湯(大根おろしの汁を2~3倍の水で薄めてパッと温めたもの)、小豆の煮汁、とうもろこしのひげ根の煎じ汁などを活用するのであるが、どれを試してもお小水は出てこないという。
 お小水が出なくなってなんと9日も経つという。その間、いろいろな飲み物も試したので、体はパンパンに浮腫んでしまっていた。尿毒症になってしまっていたのかもしれないが、力が入らず、意識もうつろな状態にまでなっていた。
 そんな時に大森の指導は、「小豆と鯉を一緒に煮て食べろ」という。食養料理では「小豆鯉」というが、小豆と鯉を一緒に煮合わせたものである。お小水が出なくなった人が早速、家族に鯉を調達してきてもらって、小豆と一緒に煮合わせて食べてみた。そうしたらビックリ、お椀一杯食べただけで、お小水がタラタラと出始めるようになった。時間をおいてもう一杯食べたら、もっと出るようになった。小豆鯉を日に三杯、3日続けて食べたら、普段のお小水に戻っていった。食養の力に驚いた。
 その後、食養指導をしながら、小豆鯉が登場することはめったになかった。腎不全でも、第二大根湯と生姜シップ(お腹や背中に)でほとんどの人が腎臓が温まってお小水の出が良くなる。血行不良がひどく、冷えの強い人には第二大根湯に生姜汁を加えて飲んで、生姜シップを念入りに2~3時間すると腎臓が活性化してくる。これを何日も続けるのだが、ネフローゼの少年で2週間ほどこの手当て法を実践して腎不全を改善した例もある。
 小豆鯉はどのような人に効くのであろうか。
 お小水が出ないというのは、汗が出ないのと同じように陽性である。体に溜まったものが外へ出ていかないわけであるから、体に求心性の陽性な力が働いて水分が出て行かなくなっている。そんな状態の人には陽性な毒素を溶かす大根や生姜を活用する。
 鯉は川魚であるが、動物である。お小水が出ないという陽性な状態になぜ動物という陽性を使うのであろうか。
 大森の説明は、鯉は動物性の中でも陰性な方で、陽中の陰という位置にあるという。そして、腎不全が進行し、陽性であっても体力が低下し、陽きわまって陰になった状態では、鯉の陽性さ(植物性に近い陰性さのある)が功を奏すという。実際に、腎不全が進行すると、体力が低下し食養の五つの体質でいう「陰性の萎縮」になってしまうことが時にある。そんな状態の人には動物性食品も必要になる。
 小豆鯉は穀菜食Bookの中にも登場する。数少ない動物性の料理のひとつである。
 穀菜食Bookはその名の通り、穀物と野菜(海の野菜・海藻料理も)の料理が中心である。日本人は特に、穀物と野菜と海藻、そして風土に合った発酵食品で元気に暮らしていくことができる。だが時に、陰性が強くなった時には身近な動物性の陽性が必要な場合もある。陰陽の目を持って、体の陰陽に合わせて食事をして、症状の陰陽に応じて手当てをしていけば、自分が自分の医者になることができる。医療の自給自足ができる。穀菜食Bookは「自分で自分を治すバイブル」である。
 自然治癒力というように、治癒力というものは自然に湧きおこってくる以外にない。病気は医者が治すのではなく、体の自然性が治しているのである。その自然性を引き出すコツが穀菜食Bookに詰まっている。