体の大掃除、できていますか?

 「やっぱり時々、断食は必要よ」と奥さんから忠告されて、和道に3年ぶりに来てくれた男性がいた。エントロピー増大の法則にあるように、万物は秩序ある状態から少しずつ無秩序に向かうというけれど、私たちの体も年をとるということはだんだんいろんなものにほころびが出てくる。家も掃除をせずに放っておくといつの間にかほこりが溜まり、蜘蛛の巣が張り、床や壁、天井までも色が褪せてくる。私たちの体も同じで、放っておくと老廃物が溜まって汚くなる。
 断食は体の大掃除だと、つくづく感じる。そして、定期的な大掃除は家も体も絶対に必要だと思う。自分の体をみても、多くの人たちをみてきても、掃除ほど大切なものはないと思う。
 握りこぶし大の子宮筋腫が七つあった女性が、8年ほど前に和道の食養合宿に参加した。子どもをなかなか授からなくて、病院で診てもらったら、「ホルモン剤を入れて子宮筋腫を小さくして、筋腫を切除して筋腫を半分くらいに減らしてから人工授精すれば、子どもが産めるかもしれない」と言われた。ホルモン剤に手術、人工授精、三重にも人工的なことをしないと子どもを授からないといわれて彼女は「嫌だな」と思ったという。
 それならばダメもとで、一年間真面目に食養をやって、断食を定期的・集中的に取り入れて、旦那さんからの後押しもあって、実践した。そうしたらびっくり仰天、筋腫が小さくなって数が減って、受精卵が着床できるような子宮になった。そして、2年後には赤ちゃんが自然に授かって生まれた。彼女が断食の他にも取り組んだのが掃除だった。和道に来ては毎回毎回掃除、自宅でも徹底的に掃除をして、体の中も家の中もすっかり綺麗にした。特にトイレ掃除には熱をこめた。
 断食は体の大掃除。体が掃除されると、そこで下す判断はまず間違えない。
 もう一人、別の女性の話。結納した後に同棲を始めたら、彼との間で価値観の違いがいろいろ出てきてしまった。あれも違う、これも違う。ワクチンのこと、コロナのこと、食養のこと。まだ結婚もしていないし、赤ちゃんも授かっていないのに、子どもの教育はどうするのかまで話が及んで、あまりに堅物な考えの彼女に、とうとう彼が嫌になって、「結婚は無理だな。別れよう」って言われてしまった。そうしたら彼女は何をしたか。普通、大人は嫌な事があったりすると、やけ酒といってお酒を飲む人が多いけれど、彼女は断食をした。やけ断食(笑)。妹さんの家に転がり込んで一週間のやけ断食が終わって、彼の元に帰ってみたら、彼との関係性が変わっていた。彼の方が折れた。「もう一回仲直りしてやってみようか」って。
 以前、すべては関係性であるとコラムに書いたけれど、自分の体の中が変わると人間関係も変わる。やけ断食を終えて家に帰った彼女の顔や仕草、言葉が彼の中の何かを解きほぐしたのかもしれない。
 行き詰まらない生き方を身につけたら人生よりよく回っていく。それでも、もし行き詰ってしまったら、断食をしたらいい。食を断って体を芯から休めてみたら、私たちは案外、底力が湧いてくる。
 奥さんから「断食は必要よ」と言われて断食に来た男性は、特別病気があったわけではないが、自分の中で何かパッとしないものを抱えていたようだ。それが何であったのか、断食前には気づかなかったのが、断食をしてみたら、それが明確になったという。年の暮れに大掃除をするのも、「これでおしまい」だからではなく、次の年を迎えるために大掃除をしている。私たちもまた、次のステージに進むために断食という大掃除をするような気がする。

素食文化にマクロビオティック

 正月早々、台湾に断食合宿と講演に行ってきた。この断食合宿と講演は、数年前からお付き合いのある日本語が流暢な台湾人の女性・法樺さんがコーディネートしてくれた。法樺さんは日本でマクロビオティックを学び、私の講座や断食合宿にもたびたび来てくれて、無双原理と食養を身につけていた。法樺さんはヨガの指導者としても有名で、台湾の新竹(しんちく)という都市でマクロビオティックのレストランとヨガスタジオを経営している。さらに、日本語、中国語、英語が堪能で、今回の断食や講演では完全に私の通訳に徹してくれた。八面六臂という言葉は彼女のためにあるのではないかと思うくらい、多方面で活躍している。
 そんな法樺さんのお陰で、素食文化が息づく台湾でマクロビオティックを普及することできた。素食とはある種の精進料理である。日本でも明治以前は肉食は禁忌だったから、日本も独自の菜食文化が発展していた。日本では禅宗(曹洞宗、臨済宗、黄檗宗)が精進料理を守ってきたが、台湾でも仏教や道教のお陰で菜食文化が今も根づいている。
 桜沢如一は西欧でマクロビオティックを禅の現代版として普及した。禅とは言葉のとおり、単純(シンプル)を示す。Simple is best(単純こそ尊い)。単純とは素直である。日本での素食は一汁一菜の簡素な食をいうが、台湾での素食は、より多くの人たちが満足する菜食のご馳走である。いわゆるもどき料理が発展している。肉、魚、卵、乳製品のもどき料理は、ホンモノそっくりでビックリする。さらに、台湾は日本よりも添加物の規制が厳しいから、台湾で有名な夜市(よるいち)でも楽しめる素食があるから素晴らしい。日本のお祭りなどで並ぶ露店では考えられない。
 台湾の菜食人口は10%以上という。これはインドの菜食人口30%に次いで多い。台湾の人口は約2300万人だから、300万人位の人たちが菜食ということになる。インドは熱帯地域、台湾は熱帯~亜熱帯地域に属する。このような温かい、暑い地域では菜食がベストである。
 台湾でのマクロビオティックの歴史は詳しく調べていないのでまだはっきりしないが、以前に田中愛子先生から、台湾でマクロビオティックを教えたことがあると聞いた覚えがある。それでも、ここ数十年はマクロビオティックの普及はなく、今回のイベントは画期的なことだったのではないかと思う。断食合宿や講演会にそれぞれ30人以上の台湾人が参加してくれた。多くの人が、日々の食や生活で実用的に応用できる陰陽を、マクロビオティックを通して知ることとなった。「自分の病気は自分で治す」という自然界では当たり前のことに、台湾の皆さんも日本の人たちと同じように驚いていた。
 マクロビオティックは身土不二、一物全体、陰陽調和を基本としているが、これは地球を一つの生命体として見た時に、当たり前の現象を言っているに過ぎない。マクロビオティックの原理原則は、地球上、ドコでもダレでも、イツでも実践できる、ホントに簡素な食と生活法である。この禅的な生き方を陰と陽という考え方に乗せて普及したのが桜沢如一である。そして、この生き方を追求していく先に世界平和がある。台湾でもそのことを何度もみんなに語り掛けた。平和な社会は私たちの一口から始まる。
 台湾では今年、正食食養協会が発足する。台湾でマクロビオティックが盛り上がることは、日本人を大いに刺激する。台湾だけでなく、南米でも東南アジアでも、そしてヨーロッパでもマクロビオティックは息づいている。桜沢如一の蒔いた種は、着実に根を張り、実っている。「素直な心は素食から」を忘れずに、日本も台湾も、そして世界でもマクロビオティックの普及に精進したい。